足首を押すと痛い。内側に傾けると痛い。前に引くと、反対側より動く気がする。これらは、同じ「陽性」という言葉でまとめると意味が曖昧になります。
この記事は医療職・学生向けに、足関節捻挫の診察で圧痛とストレステストをどう位置づけるかを整理した解説です。一般の方が自分や家族の足首を強く押す、引く、ひねるための実施マニュアルではありません。実技は指導者のもとで学び、診療では所属施設の手順と職種の役割に従ってください。
先に確認:ストレステストより受診・画像評価を優先する場面
強い変形、開放創、足の冷感・色の変化・しびれ、荷重が困難な状態では、靱帯のテストを一通り行うより医療評価を優先します。骨折が疑われるときや、強い痛み・腫れ・防御性収縮があるときは、無理に検査を進めません。痛みや腫れのため評価しにくい場合は、数日後の再評価が役立つことがあります。[1]
「今日できなかった」を「陰性」とは記録しません。実施を見合わせた理由を残すことも評価です。
圧痛とは?「どこを押すと、どんな痛みか」を分ける
圧痛は、触診による圧迫で誘発される痛みです。部位を確かめ、「普段感じている痛みと同じか」「骨の輪郭上か、その周囲の軟部組織か」を整理します。広い範囲を強く押して痛みを探すだけでは、組織ごとの情報を分けにくくなります。
| 確認する領域 | 記録で分けたいこと |
|---|---|
| 外くるぶし周囲 | 外果そのものか、前方・下方の軟部組織か |
| 内くるぶし周囲 | 内果の骨性圧痛か、三角靱帯領域の症状か |
| 足部・足関節より近位 | 足首だけでなく、受傷機転や症状に応じて評価範囲を広げる必要があるか |
靱帯の領域に圧痛があっても、それだけで断裂の有無や程度は確定しません。痛む場所を地図にする感覚で、問診・腫れ・荷重能力などと照らし合わせます。
骨性圧痛とOttawa Ankle Rules
成人の急性外傷では、Ottawa Ankle Rulesは足関節・足部のX線撮影が必要か判断するための臨床ルールです。靱帯損傷の重症度や競技復帰を判定するものではありません。[2]
| 痛む領域 | 画像評価を検討する所見 |
|---|---|
| 足関節領域 | 外果または内果の後縁(遠位6cm)・先端の骨性圧痛、あるいは受傷直後と診察時の両方で4歩の荷重歩行ができない |
| 中足部領域 | 第5中足骨基部または舟状骨の骨性圧痛、あるいは受傷直後と診察時の両方で4歩の荷重歩行ができない |
各領域の痛みを前提に、いずれかの所見があるかを評価します。表は成人向けルールの要点です。小児や感覚障害など、対象・適用条件が異なる場合に機械的に使いません。陰性でもすべての骨折や軟骨・腱の損傷を否定できるわけではなく、経過と臨床所見を優先します。[1、2]
前方引き出し・内反・外反ストレステストの違い

| 評価 | 主な目的・対象 | 混同しないこと |
|---|---|---|
| 前方引き出しテスト | 距骨の前方移動をみて、主に前距腓靱帯(ATFL)に関わる機械的安定性を評価 | 痛みの誘発と前方移動の増大は別の所見 |
| 内反ストレス/talar tilt | 内反方向の傾きによる外側の安定性を評価。踵腓靱帯(CFL)などを考える | 肢位や距骨下関節の動きも影響し、単一靱帯だけを独立して判定する検査ではない |
| 外反ストレス | 外反方向で内側支持組織、特に三角靱帯領域の痛みや安定性を検討 | 内側痛だけで三角靱帯損傷と確定せず、骨折・脛腓靱帯損傷なども考える |
前方引き出し・内反の解釈は診断精度研究、外反ストレスと内側支持組織は三角靱帯損傷のレビュー、受傷に伴う鑑別は専門家向けマニュアルを参考に整理しています。[1、3、5]
前方引き出し:痛みより「移動」と終末感を区別する
下腿に対する距骨の前方移動を評価する検査です。疼痛、左右差、終末感(動きの終わりで感じる抵抗)、防御性収縮、検査を十分に行えたかを分けて残します。「痛がったからATFL完全断裂」とは結びつけません。
2022年のシステマティックレビューでは、前方引き出しテストの統合感度は54%(95%信頼区間35〜71%)、特異度は87%(同63〜96%)でした。研究条件や陽性基準にばらつきがあるため、その数字を個人の診断確率と同一視できません。特に陰性だけで損傷を除外しないことが大切です。[3]
内反ストレス:足の向きだけでなく、何を見たかを書く
「内反ストレステスト」という呼び方だけでは、肢位や評価方法が曖昧な場合があります。talar tiltで距骨の傾きを評価したのか、内反方向で痛みが出たことを記録しているのかを明確にします。2022年のレビューは、talar tiltがCFL損傷を支持する一方、陰性で十分に除外できる検査は不足しているとしています。[3]
徒手検査とストレスX線による計測は同じものではありません。ネット上の角度・距離のカットオフを、徒手検査の印象にそのまま当てはめないでください。
外反ストレス:三角靱帯だけに視野を狭めない
外反方向の受傷では内側支持組織への負荷に加え、骨折や遠位脛腓関節の損傷を伴うことがあります。近位腓骨の評価が必要な場合もあります。[1]「外側の捻挫の反対版」と考えて、外反ストレスだけで評価を終えないことが大切です。
三角靱帯損傷のレビューでも、内側の圧痛は急性外傷で特異的な所見とは限らず、身体所見と画像所見を併せる必要があるとされています。[5]また、外反ストレスと外旋ストレスは同義ではありません。検査名・加えた方向・痛む部位を区別し、脛腓靱帯の評価は別の臨床課題として整理します。
単独のテストで、断裂の程度や復帰を決めない
2021年ガイドラインは、従来の前方引き出しだけでなく、補助的な検査と詳細な病歴・身体所見を合わせることを推奨しています。[4]2022年レビューも、臨床検査だけで損傷の段階を細かく分類できるかには不確実性があるとしています。[3]
もともとの関節の柔らかさ、過去の捻挫、両側の既往、検査時の痛みなどがあるため、反対側との比較だけでも完結しません。必要に応じた画像評価、症状の経過、機能面を合わせて判断します。
学生・新人向け:評価記録に残す項目
| 項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 受傷と経過 | 時期、機転、荷重の可否、既往、症状の変化 |
| 圧痛 | 解剖学的部位、骨上か軟部組織か、既知の痛みとの一致 |
| 検査条件 | 検査名、肢位、左右、実施可能性 |
| 結果 | 痛みの部位・強さ、移動・傾き、終末感、防御性収縮 |
| 判断と次の行動 | 何を疑い、何は未確認か。報告・受診・再評価の必要性 |
たとえば「前方引き出し陰性」だけでなく、「疼痛と防御性収縮が強く、前方移動の評価は困難」と記録すれば、情報の限界が伝わります。これは記載例であり、実際の患者所見ではありません。
走行・競技復帰には別の確認が必要
ストレステストは靱帯・機械的安定性の評価の一部です。陰性だから走ってよい、陽性だから運動がすべて不可能、と一対一では決まりません。可動域、筋力、バランス、本人の不安、目標とする動作も含めて計画します。
参考資料
- Merck Manual Professional:Ankle Sprains(2026年9月更新)。 検査時期・受傷機転と鑑別の参考。
- NSW Agency for Clinical Innovation:Ottawa ankle rules (adult). 成人の画像評価判断の参考。
- Netterström-Wedin F, Matthews M, Bleakley C. Diagnostic Accuracy of Clinical Tests Assessing Ligamentous Injury of the Talocrural and Subtalar Joints: A Systematic Review With Meta-Analysis. Sports Health. 2022;14(3):336–347. DOI:10.1177/19417381211029953.
- Martin RL, et al. Lateral Ankle Ligament Sprains Revision 2021. J Orthop Sports Phys Ther. 2021;51(4):CPG1–CPG80.
- Deltoid ligament injuries: A review of the anatomy, diagnosis and treatments. 2024. DOI:10.1002/ksa.12274. 外反ストレスと内側支持組織の評価の参考。
資料確認日:2026年10月26日。医療職・学生向けの一般的な学習資料です。表と説明はPT NOTEの独自構成、イラストはAIによる模式図です。具体的な手技、力の加え方、肢位の実技指導や個別の診断を代替しません。


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