ランニングやジャンプのときに踵の後ろが痛い。朝の一歩目で、アキレス腱がこわばる。こうした症状で候補になるのが「アキレス腱障害(アキレス腱症)」です。ただし、踵の後ろの痛みがすべて腱の障害とは限りません。
この記事では、成人のアキレス腱障害を中心に、痛む場所による違い、負荷の調整、リハビリの考え方を整理します。突然のけがやアキレス腱断裂のリハビリは、対象に含みません。
突然の痛み・力が入らないときは、先に受診を
「ブチッ」という音や、後ろから蹴られたような感覚とともに痛みが出たときは、断裂の可能性があります。急に蹴り出せなくなった、踵が上がらなくなったという場合も同じです。運動を中止して、すぐに整形外科を受診してください。歩けるからといって、断裂を否定することはできません。確かめるために、片脚の踵上げを何度も試す必要もありません。[1,4]
痛みが続く、腫れが増える、日常の歩行に支障が出る場合も受診が必要です。診断がついていない段階で、以下の運動を無理に始めないでください。
アキレス腱は、ふくらはぎと踵をつなぐ
アキレス腱は、腓腹筋とヒラメ筋の力を、踵の骨(踵骨)に伝える組織です。踵を上げる、歩いて蹴り出す、走る、跳ぶといった動きを支えています。[1,5]

図:位置関係を簡略化したPT NOTEオリジナル図。診断用の図ではありません。
「アキレス腱炎」という言葉も使われます。しかし、長く続く痛みを炎症だけで説明することはできません。この記事では、運動などの負荷に関連した腱の痛みと機能の低下を、「アキレス腱障害」と表現します。[2]
腱の途中と付着部では、注意点が違う
| 分類 | 主に痛む場所 | 運動時の注意 |
|---|---|---|
| 中部のアキレス腱障害 | 踵への付着部より数cm上の腱 | 症状と筋力に合わせて、腱への負荷を徐々に増やす |
| 付着部のアキレス腱障害 | 踵の骨に腱がつく部分 | 初期は床での運動を検討。段差から踵を深く下げる運動を一律に行わない |
付着部が痛む人に、腱の中ほどの障害と同じ運動をそのまま当てはめるのは避けましょう。また、痛む場所だけでは、滑液包など、まわりの組織の問題と区別することもできません。[1,3]
原因を考えるときは、最近の負荷の変化を振り返る
走る距離やスピード、坂道、ジャンプの回数、練習の頻度などが、急に増えていないかを確かめます。靴を変えたことや、仕事で歩く量が増えたことも手がかりになります。[1]
たとえば、走る距離を増やした週に、坂道ダッシュも加えていたとします。この場合、総距離だけを減らしても、刺激が強すぎることがあります。距離、強さ、頻度のうち何を変えたのかを分けて記録しておくと、調整する項目が見つけやすくなります。
足の形や柔軟性だけで原因を決めつけず、ふくらはぎの筋力、足関節の動き、実際の運動負荷を合わせて評価します。[5]
リハビリの基本は、負荷を調整しながら筋力を戻すこと
腱の中ほどのアキレス腱障害では、適切に評価された人に対して、腱に負荷をかける運動が、2024年版のガイドラインで第一選択として推奨されています。これは、痛みを我慢して最大の重さを扱うという意味ではありません。その人が耐えられる負荷を選びます。[2]
痛みを悪化させるランニングやジャンプは、いったん減らします。できれば、症状を悪化させない活動に置き換えましょう。そのうえで、次のような踵上げを、段階的に考えます。[1,3,5]

1.座って踵を上げる
椅子に座り、前足部を床につけたまま、踵をゆっくり上げ下げします。立位の運動が難しい段階で検討する方法です。軽く動くだけで負荷が足りない場合は、専門家と相談して抵抗を調整します。
2.両脚で踵を上げる
壁や手すりに手を添え、安定した床で両脚の踵をゆっくり上げ下げします。反動を使わず、上げる動きと下ろす動きの両方をコントロールします。付着部が痛い場合は、初めから階段の端で踵を深く下げないようにします。[1,3]
3.片脚・抵抗を加えた運動へ進める
両脚で安定して行え、運動後や翌朝の症状が大きく悪化しないことを確認してから、片脚や抵抗を加えた運動へ進めます。片脚の踵上げは、診断前の自己テストとして無理に行うものではありません。
回数の一例: 運動を開始してよいと確認された人が、方法と反応を確認する段階では、まず少ない回数(例:5〜10回を1セット)から試す方法があります。これは治療効果が保証された共通の処方ではありません。十分な負荷やセット数は、筋力と症状を見て調整します。
中部の障害に対する2024年版ガイドラインは、負荷運動を少なくとも週3回行うことを提案しています。ただし、急性の強い痛み、付着部の障害、断裂後には、そのまま適用できません。[2]
「運動中」だけでなく「翌朝」を確認する
運動中に耐えられても、翌朝の痛みやこわばりが増える場合があります。運動内容と次の項目を記録すると、負荷の相談に役立ちます。[3]
- 運動中と運動後の痛み
- 翌朝の最初の数歩の痛み・こわばり
- 腫れ、歩き方、踵上げのしやすさの変化
症状が明らかに強くなる、足を引きずる場合は、回数・抵抗・可動範囲やスポーツ量を見直します。鋭い痛みや急な筋力低下が出たときは中止して受診してください。「痛みが何点以下なら誰でも安全」とは言い切れません。
ストレッチだけで治そうとしない
足関節の動きが制限されている中部の障害では、ストレッチを検討することがあります。ただし、腱の痛みを強く誘発する伸ばし方は避けます。特に付着部の痛みでは、深く踵を下げる姿勢に注意が必要です。[1,2]
踵をゆっくり下ろす「遠心性運動」だけが、唯一の方法というわけでもありません。2024年版のガイドラインでは、さまざまな形の負荷運動で効果が示されています。症状や実施できる環境に合わせて選びます。[2]
ランニングや競技復帰は、日数だけで決めない
日常の歩行、踵上げの筋力・持久力、競技で必要な動き、運動後の症状を確認しながら復帰を進めます。[3,5]
進め方の例は、歩行から短いジョギングへ、その後に走行時間・速さ・坂道・ジャンプなどを段階的に追加する方法です。すべてを同時に増やさず、追加した負荷に対する翌日の反応を確認します。
改善には数か月単位の継続が必要になることがあります。オランダのガイドラインは、少なくとも12週間の段階的な筋力運動を推奨していますが、「12週間で必ず治る」という意味ではありません。改善が乏しい場合は、診断と運動内容を再評価します。[3]
よくある疑問
痛みがあっても走ってよい?
診断、痛みの強さ、歩行への影響、運動後の反応によって変わります。強い痛みを押して走り続けず、症状を悪化させる負荷を調整してください。[1,3]
MRIは必ず必要?
症状と診察で判断できることもあります。診断が不確か、経過が想定と異なる、ほかの病気を疑う場合などに、医師が画像検査の必要性を判断します。[3]
子どもの踵の痛みも同じ?
この記事は成人の腱障害を中心としています。成長期の踵の痛みには別の原因もあるため、大人向けの運動をそのまま当てはめず、診察を受けてください。
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参考文献・資料
1. American Academy of Orthopaedic Surgeons. Achilles Tendinitis, OrthoInfo.
2. Chimenti RL, et al. Achilles Pain, Stiffness, and Muscle Power Deficits: Midportion Achilles Tendinopathy Revision – 2024. J Orthop Sports Phys Ther. 2024;54(12):CPG1–CPG32. doi:10.2519/jospt.2024.0302. 主に中部の障害を対象とするガイドライン。
3. de Vos RJ, et al. Dutch multidisciplinary guideline on Achilles tendinopathy. Br J Sports Med. 2021;55:1125–1134. doi:10.1136/bjsports-2020-103867.
4. American Academy of Orthopaedic Surgeons. Achilles Tendon Rupture (Tear).
5. 『足部・足関節理学療法マネジメント』「足関節底屈機構(heel cord)の障害」:評価とアプローチ(印刷ページ74〜79)、ケーススタディ(印刷ページ192〜201)。ケースの治療日程を全員に共通する基準としては扱っていません。
文献・資料確認日:2026年10月9日。図はPT NOTEで作成し、教科書の図版は転載していません。本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別の診断・治療の代わりにはなりません。


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